不妊症と漢方
不妊治療の理想は自然妊娠です。ART(生殖補助医療技術)は進歩していますが、「より自然に」近い妊娠が理想とされ、体外受精においても卵巣に負担ない完全自然周期採卵、または卵巣に負担の少ない自然周期採卵が行われる施設が増えつつあることは喜ばしいことです.
質の良い卵子は、受精卵へとつながります。そして質の良い受精卵→胚は着床、妊娠へとつながります。
『卵をつくり、育てる力』を女性はそれぞれお持ちですが、残念ながらその力には個人差はあります。子宮内膜も同じです。大切なのは、その力を最大限に発揮できるような良い環境の「心とからだ」にすることです。
そこに力を発揮するのが漢方療法です。妊娠し、出産し、出産後の母体の健康まで見据えたからだづくりを考えた漢方療法は、すべての不妊治療の基礎療法と位置付けられます。
“妊娠”することは不妊治療のスタートです。赤ちゃんを出産し、ママとなり、パパとなり、育児をする不妊治療のゴールを、適切なあなたにあった漢方療法で目指しましょう。
安達漢方薬局の漢方療法で不妊治療を取り組まれる方の多くは、産婦人科の治療を数年行っても妊娠、または出産に恵まれなかったご夫婦です。
その方々が令和元年は1年間で51組妊娠に恵まれました.妊娠率は約30%になります。 令和2年が50組、令和3年が62組のご夫婦が妊娠に恵まれました。本年も多くの方が妊娠・出産されています。かわいい赤ちゃんと一緒に報告に来られる方もあり、私どもが一番この仕事をしていてよかったと感じるひと時です。
令和4年4月より体外受精・人工授精も保険適用となりました。しかし、今まで患者さんのひとりひとりに合わせた治療が可能であったことが保険適用後は、全員同じ標準の治療となります。治療が標準化されるというのは良いことなのですが、最先端の医療や薬剤の導入ができない、または導入が遅れてしまう可能性があります。不妊治療は、保険適用の大半のケースにおいて漢方の力が頼りになるものです。妊娠に対する正しい知識と理解を持って、希望の扉を開きましょう。
内容
1、卵胞と卵子の発育について
2、漢方治療にて妊娠中の方や無事出産された方の一部の紹介
3、妊娠力を強くするための不妊治療の基本
4、妊娠はスタート、ゴールは出産です。
5、不妊症治療のための検査について解説
6、生理と妊娠に関する基礎知識です
7、不妊症の漢方療法の解説
8、不妊の漢方周期療法
9、男性不妊の検査と漢方療法
10、よく受ける質問について
◇◇◇不妊に対する的確な漢方の効果は大いに期待できるものです ◇◇◇
高度生殖医療(ATR)は、子供に恵まれない夫婦には大きな福音をもたらすことになり、とても喜ばしいことです。
しかしARTを中心にすえた最近の不妊医療のあり方には、落とし穴が存在していることを感じるのは私だけでしょうか? その穴とは、この「業界」の一部には「過剰な医療行為」をもたらす体質に陥ってしまっているところがあるという現状です。 私自身も何度か経験することですが、度重なる体外受精の後に漢方治療だけで自然に妊娠したという笑えない現実があるからです。 つまり「患者さんに対して、必要以上の医療行為が行われている」という実態があるのではないかと考えさせられるのです。
患者の需要の高まりに医療側が安易に応じていることと、不妊医療が経営が優先されるようになったことがその背景にあるということは否めません。時代の流れとはいえ、望まない方向に向かって大きく舵をとられてしまったような危機感と不安を感じています。
ご理解していただきたいことがあります。
人工授精(AIH)の適応はヒューナーテスト不良不妊症、
体外受精・胚移植(IVF.ET)の適応は卵管不妊症、男性不妊症であるということです。
たとえば卵管機能やヒューナーテスト正常で、卵(卵子・卵胞)や黄体機能が不調の卵巣機能不全の不妊に対し、ステップアップの名のもとAIHを実施したり、最終的には本来は行う必要がない体外受精(IVF)を実施しても妊娠する確率はほとんどありません。それは適応外だからです。
また、ヒューナーテスト不良不妊症のために人工授精を行うのは適応治療です。しかし、卵巣機能不全を伴っていては、人工授精を行っても、受精や受精直後から始まる受精卵の分裂・成長から着床までは望めません。あなたの妊娠力(卵巣機能)が大切なのです。
卵管不妊症、男性不妊症のために体外受精・胚移植を行うのは適応治療です。しかし、胚移植後の成長から着床・妊娠の維持もあなたの妊娠力しだいなのです。当然、それぞれの治療においてHMG製剤・クロミフェン製剤・HCG製剤・Luteal Supportなどを実施しますが、最終的に妊娠成立し且つ予後良好(流産しない可能性が高い)になるのはあなたの妊娠力しだいなのです。
人工授精(AIH)の妊娠率が10%以下、体外受精・胚移植(IVF.ET)や顕微授精(ICSI)などの高度生殖補助医療の妊娠率が22%以下・出生率15%というのが現状のようです。
実は「その患者さんに必要と考えられる医療」と「患者さんにおこなわれている医療」との間には、大きな隔たりがあることが少なくありません。
安達漢方薬局を訪れるご夫婦は、クリニックの医療で妊娠または出産まで至らなかった方がほとんどです。その人たちが漢方治療をすることで約30%妊娠し出産されています。安達漢方薬局で目指していることを一言でいえば、心身の環境を良くしながら、同時によい卵が育ち、良い子宮環境になり、「あかちゃんが授かるからだ」に患者さんと一緒におこなうことです。
自然妊娠を目的とした漢方単独療法から、高度生殖医療の基礎療法(妊娠力を強化する・妊娠体質にする・卵(卵胞・卵子)や黄体機能を良くする)まで、漢方の不妊に対する効果は大いに期待できるものなのです。
不妊と漢方に対する正しい知識と理解をもって、希望の扉を開きましょう。
1、卵胞の発育と卵子について理解しましょう! |
卵巣内の原始卵胞が目覚め、活性化して発育し、成熟して排卵に至るまでには半年以上の期間を要します。
女性の卵巣には誕生した赤ちゃんの時に多数の未成熟な卵胞が含まれており、それを原始卵胞といいます。その数は100万個~200万個といわれています。
原始卵胞は思春期までに自然淘汰されて30万個ほどになります。そして、思春期になると原始卵胞の一部が活性化され成長をはじめます。
活性化された原子卵胞はおおよそ半年かけて
一次卵胞→二次卵胞→前胞状卵胞→初期胞状卵胞→中期胞状卵胞→胞状卵胞へと
変化し成長します。
原始卵胞から前胞状卵胞までは3ヶ月以上かけてゆっくりと到達します。
前胞状卵胞から初期胞状卵胞までは約25日かかります。初期胞状卵胞まではFSH(卵胞刺激ホルモン)に関係なく発育していきます。
直径が2~5mmになるとFSHに反応して発育するようになり、selectable follicle (選択される可能性を持った卵胞)と呼ばれます。24-33歳の女性では前の周期の黄体期には3~20個ほどのselectable follicleがあります。排卵に向かう卵胞はこれらの卵胞の中にあります。
このサイズになると月経開始から約2週間で排卵になりますが、排卵に至らなかった卵胞は閉鎖卵胞となり消えてなくなってしまいます。selectable follicleのうち、どの卵胞が排卵し、どの卵胞が閉鎖に向かうのかはまだはっきり解明されていません。
selectable follicleの数は年齢が増すに伴い減少していきます。この段階にはいると卵胞の中の顆粒膜細胞はFSHの刺激により盛んに増殖し、卵胞液も急増します。ほんの2週間で卵胞のサイズも数mmから20mmにまで急激に大きくなります。この間に顆粒膜細胞は盛んにエストロゲンを作りだします。
一説には原始卵胞の一部が成長をはじめる数は20歳台で約1000個、30歳台で約500個、35歳台で100個、40歳台になると約10個と言われています。たった1個の排卵のために、とても多くの数の原始卵胞が毎月消失していくわけです。
排卵にいたる卵胞(卵子)がその中で最も質の高いものかどうかは分りませんが、少なくとも相対的に良質な卵子が選ばれて排卵するのではないでしょうか?
2、漢方療法で妊娠中の方や無事出産された方の中から一部を紹介します。 |
◇症例1 42歳 名古屋市
35歳の時、アンタゴニスト法にて3回採卵し、胚盤胞移植7回するも妊娠なし。
その後不妊治療を中止していました41歳からからだに合わせた漢方薬と鹿茸大補湯を服用しながら
アンタゴニスト法にて採卵し、胚盤胞移植し妊娠しました。
養胎のための漢方薬と鹿茸大補湯を3ケ月継続服用していただきました。
後日無事男の子を出産したと報告を受けました。
◇症例2 37歳 一宮市
32歳の時、クロミッド療法を1年間継続し、その間に4回AIHするも妊娠なし。
36歳の時 HMG-HCG療法をしながらAIHを3回するも一度も妊娠なし。
からだに合わせた漢方薬と鹿茸大補湯を服用しながらAIHを実施して3つ子を妊娠。
養胎のための漢方薬と鹿茸大補湯を継続服用し、10月22日で24週(7ヶ月)に入りました。とても順調です。
安達漢方薬局の不妊治療にて3つ子の妊娠は初めてのケースです。出産まで、しっかり援護していきます。
12月8日で32週(9ヶ月)に入りました。とても順調です。
万全を期すため入院されています。
12月31日母子ともに無事に出産されました。
◇症例3 34歳 一宮市
体外受精13回、胚盤胞移植5回するも妊娠なし。
漢方治療を2ヶ月間継続して3つ採卵。2つ胚盤胞まで培養し移植し妊娠。その後養胎のための漢方薬の服用を継続しながら、現在妊娠23週目(10月20日現在)
12月1日妊娠8ヶ月に入り順調です。
翌年2月に無事に出産されました。
◇症例4 35歳 名古屋市
習慣性流産(2年間で4回流産)
漢方治療にて妊娠し、悪阻のひどい時もあったが漢方治療にて無事に乗り越え、現在8ヶ月目(10月15日現在)。
10月29日予定日より1ヶ月早く出産されました。
◇症例5 28歳 名古屋市
子宮内膜症不妊
子宮内膜症のため手術をしたが、1年間妊娠せず。5ヶ月間の漢方治療にて妊娠 無事出産。
◇症例6 30歳 江南市
結婚して4年間妊娠できず。卵巣嚢腫、子宮筋腫、月経前症候群などあり。
漢方治療開始後1年3ヶ月間にて自然妊娠するも2ヶ月で流産。流産は残念であったが、妊娠できたことにより希望が湧いてきた。
その後も漢方治療を続けその半年後に自然妊娠。
妊娠中も養胎のための漢方薬を継続服用し、つわりや貧血、むくみなどがあったが無事男子を出産。
二人目がほしくなり、夏から漢方治療に再挑戦。10月に妊娠。おめでとう
11月30日現在妊娠8週にて軽い悪阻があるが順調。
12月15日現在妊娠11週にて順調に経過しています。
翌年1月26日20週(6ヶ月)になり順調ですが、妊娠前に比べて体重が7kg増えているため、増えすぎないように指示しています。妊娠後半は300~400g / 週 ほどの体重増加が標準です。
2月28日24週7ヶ月に入りました。体重増加が気がかりですが、それ以外は順調です。
6月末に出産されました。祝い!
◇症例7 28歳 稲沢市
3年間でAIHを13回、IVF-ETを6回するも一度も妊娠なし。
1年間漢方治療を継続し基礎体温が良好になってきたため採卵し、体外受精→杯盤法移植をして妊娠。
妊娠中も養胎のための漢方薬を継続服用。妊娠6ヶ月に入り安定してきたため漢方を休薬。無事女子を出産。祝い!
◇症例8 29歳 名古屋市
生理不順のため、1年間クロミッド療法とHMG療法をしたが妊娠せず。
ご主人の精液所見も悪かったため(精子濃度と運動率の低下)夫婦で2年間漢方治療を継続し、自然妊娠。妊娠中も養胎のための漢方薬を服用。妊娠8ヶ月まで漢方薬の服用を継続し、無事女子を出産。祝い!
◇症例9 41歳 一宮市
習慣性流産(2年間で3回、6~8週頃の稽留流産)
鹿茸大補湯と漢方周期療法を開始して二ヶ月で妊娠。
妊娠後も鹿茸大補湯と保胎飲の服用を継続し10月4日現在15週に入り順調。これで、1ヶ月間経過よければ漢方治療休止しても可と指示。
11月29日23週(6ヶ月)順調
12月13日25週7ヶ月になりました。
翌年年2月に無事に出産されました。祝い!
◇症例10 33歳 男性 岐阜市
奥様の産婦人科による諸検査には異常がなく、ご主人の精液所見が悪かったため(精液量:2.3ml、精子濃度1800万/ml、運動率36%、奇形率48%)ご主人のみ漢方薬(五子衍宗丸加鹿茸)とビタミンB12とユビデカレンを服用。
3月から4ヶ月間の服用にて自然妊娠。
翌年1月に出産されました。祝い!
◇症例11 32歳 女性 三重郡
子宮内膜ポリープ、子宮頸管部のポリープ、子宮内膜症、チョコレート嚢胞、左卵管癒着、右卵管通過不良、子宮内膜ポリープのよる不正出血、月経異常など、さまざまな妊娠障害があり、26歳から漢方治療を継続。不正出血や生理不順なども改善され29歳で結婚。30歳から漢方を不妊治療に重点をおいて続けながら31歳AIHを4回実施するも妊娠せず、卵管障害も考慮し体外受精を実施。1回目で妊娠。その後も保胎のための漢方治療を継続しながら順調に推移。
9月17日に男の子を出産されました。祝い!
◇症例12 46歳 女性 揖斐郡
40歳より不妊治療を開始し、44歳までの間に採卵を11回しましたが受精卵の状態が悪く移植は1回。44歳から当店で漢方治療し6回目の採卵で受精卵が胚盤胞まで成長し45歳で妊娠。平成26年3月に元気な赤ちゃんを無事出産されました。
平成20年は毎月4~5名の方が妊娠されて、1年間で63名の方が妊娠されました。私自身、不妊に対する漢方治療の効果に対して改めて見直しつつ、その効果をより良くするため今後も真摯に一層の研鑽に励んでいきます。
平成21年は67名の方が妊娠されました。妊娠された方は、20歳代が9人、30~34歳が23人、35~39歳が29人、40歳が以上6人です。残念ながら5名の方が流産されています。
平成22年は、20歳代が8人、30~34歳代が35人、35~39歳代が27人、40歳以上が6人,合計76人が妊娠されました。
平成23年は、20歳代が12人、30~35歳代が24人、36~39歳代が36人、40歳以上が17人,合計89人が妊娠されました。40歳以上で不妊の漢方治療を始められる方が多くなっているため、40歳以上の妊娠された数が増加しています。
平成24年は、妊娠された方が昨年以上に増えましたが、目標としている100人には残念ながら届きませんでした。また、せっかく妊娠されたものの流産された方も数名ありました。100名妊娠されれば平均20人流産すると言われています。高齢になれば染色体異常による流産も増えてきます。これは、避けることのできないことでありますが、母体が原因の流産は不妊治療に於いては起こさないようにしなければなりません。
平成25年は30歳未満の患者様が増え、29歳以下の妊娠された方が増加しました。やはり、30歳未満の方の妊娠率は良い結果が出ています。20歳代が12人、30~35歳代が24人、36~39歳代が36人40歳~44歳が14人、45歳以上が3人妊娠されました。
それに反して、45歳を超えると成績は悪くなります。しかし、妊娠率が悪くとも妊娠される方をみていると、患者様に対して、何歳までをめどにすべきかが迷うところです。
以下平成26年以降の当方の不妊漢方治療による妊娠し出産されたデータです。
◇平成26年
~29歳が6人、30~35歳が17人、36~39歳が20人、40~44歳は14人、45歳以上はありませんでした。合計で57人。
◇平成27年
~29歳が8人、30~35歳が23人、36~39歳が26人、40~44歳は24人、45歳以上は3人妊娠されましたが残念ですが流産され出産には至りませんでした。合計で81人。
◇平成28年
~29歳が6人、30~35歳が24人、36~39歳が28人、40~44歳は22人、45歳以上はありませんでした。合計で80人。
この10年間ほど、漢方の不妊治療を始められる方の年齢層は高くなり35歳以上もが多くなっていますが、40歳以上の方も増えています。その年齢層の方は、不妊外来に長年通院しても結果が出なかったグループと、結婚年齢がが遅かったためのグループに分けられます。今後もこの傾向は続くと思われます。
高齢になれば残っている卵子の数は少なくなり、卵子の質も低下してきます。女性側の妊娠できるかできないかの原因はいろいろありますが、大きな原因は卵子の質です。漢方治療で卵子の数を増やすことはできませんが、卵子の質を良くすることは可能です。この年齢層の方が、今まで以上に良い結果が出るよう、真摯に研究を重ねて技術の向上に努力しています。
3、妊娠力を強くするための不妊治療の基本 |
卵(卵胞や卵子)や黄体機能が不調の卵巣機能低下の強化を目的とした治療のことです。
子宮内膜症不妊、高プロラクチン血症、多嚢胞性卵巣症候群は先にそのための漢方治療を行います。卵管機能不全不妊は基本的には漢方治療の対象外です。
(1)、下垂体からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)や、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)の分泌が不安定。
原因:妊娠に不適切な環境(ストレス、情動不安、慢性の睡眠不足、病気、ダイエットなど)
治療:◆漢方療法(疎肝理気剤)
方剤例:四逆散、逍遥散、加味逍遥散など
漢方療法だけで不十分の場合
◆hMG製剤(FSH, LH補給) → ◆クロミフェン製剤(FSH,LH分泌促進)
(2)、FSH、LH、が卵巣に適切に循環しない。 または卵胞ホルモン(E)、黄体ホルモン(P)が子宮に適切に循環しない。
原因:冷え性、低血圧、運動不足
治療:◆漢方療法
方剤例:当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、少腹逐お湯など
(3)、卵の発育や卵胞、黄体ホルモン生成に必要な栄養分やエネルギーが不足している。
原因:過度なダイエット、過度な偏食、胃腸虚弱などによるやせ過ぎ
治療:◆漢方療法は補気補血剤
方剤例:十全大補湯、当帰補血湯、人参養栄湯など
(4)、卵胞の質が悪い(E2が低い、卵胞径が小さい)。
治療:◆漢方療法(補精益血剤)
方剤例:鹿茸大補湯、参茸補血丸、双料参茸丸など
漢方療法だけで不十分の場合
◆hMG製剤
◆hMG製剤にクロミッドを併用
(5)、黄体機能不全。
治療:◆漢方療法(補陽剤)
基本は卵胞の質を良くすることです。
方剤例:鹿茸大補湯、参茸補血丸、双料参茸丸などに紫河車、続断、杜仲、
菟絲子などを加味します。
漢方療法だけで不十分の場合
◆hCG製剤
(6)、卵胞発育期間が11日以内(早発排卵)。
卵巣の老化が進み卵巣に妊娠可能な優良原始卵胞が少なくなっている状況と判断します。
治療:◆漢方療法(補血補陰剤 芍薬剤)
方剤例:六味地黄湯、芍薬甘草湯などに菟絲子や少量の鹿茸製剤を併用。
漢方療法だけで不十分の場合
卵巣の機能が低下しているため、脳下垂体から多量のFSHで刺激され、卵胞が早熟
(質 は良くない)している状態です。カフマン療法で卵巣に休養を与えることもひとつの
方法です。
体に優しい天然の類似ホルモン補充療法もあります。
◆GnRHa製剤(スプレキュア、ナサニール)-hMG-hCG療法
(7)、卵胞発育期間が18日以上(遅発排卵)。
卵子さえよければ妊娠可能です。卵胞発育期間が30日~60日でも妊娠・出産できます。最終的に良い卵子に育てば月経周期を気にする必要はありません。
治療:◆漢方療法(補気補血剤、補陰補陽剤、活血化お剤などを随証療法)
(8)、高プロラクチン血症、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜症。
上記以外に、妊娠の妨げになる要因には、高プロラクチン血症、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜症があります。高プロラクチン血症・多嚢胞性卵巣症候群につては「女性の疾患」を、子宮内膜症につては「子宮内膜症」のページをご覧下さい。
→「女性の疾患」のページへ
4、妊娠はスタート 妊娠したら始めましょう!保胎・養胎を |
保胎とは、妊婦が平素より虚弱であったり、過去に2回以上流産を繰り返した場合、または不妊歴が2年以上の場合に流産を予防しながら胎児の健全な発育を得るための漢方治療です。
養胎とは、妊娠後胎児の発育が緩慢な場合、胎児の成長発育を促し流産を予防し、健全な新生児を得る漢方治療です。
妊娠はスタートです。不妊治療でめでたく妊娠したら、出産のゴールをめざし、妊娠5~6ヶ月の安定期まで保胎のための漢方治療を続けましょう。
1.保胎
保胎飲:人参・白朮・茯苓・当帰・白芍・阿膠・菟絲子・桑寄生・続断・杜仲
甘草・縮砂・香附子
寿胎飲:菟絲子・桑寄生・続断・阿膠
2.養胎
四君子湯合千金保孕丸:人参・白朮・茯苓・杜仲・山薬・続断・桑寄生
熟地黄・陳皮・甘草・縮砂
5、 不妊症治療のための検査について解説します |
産婦人科的な治療をするためにも漢方治療をするためにも、不妊治療の基本は不妊原因を明らかにして、適切に対応することです。検査は『これだけ検査すれば、すべてが明らかになる』といったものでは残念ながらありませんが、原因が見つかれば、それに対応した治療で妊娠率は高まります。検査について簡単に説明します。
検査についての詳細解説は不妊治療クリニックのホームページを参考にされるほうが分かりやすいと思います。
1. 不妊症の検査で、必須の七大基本検査
2. 不妊症の検査で、比較的必要な検査
3. 個々の症例により必要な特殊検査
1.不妊症で必須な七大基本検査
1.基礎体温の測定
2.卵胞の発育や排卵の有無を調べる経膣超音波による卵胞検査
3.卵巣機能や内膜の状態を調べる血中ホルモン検査
4.子宮の形と卵管の通過性を調べる子宮卵管造影というX線検査
5.精液検査(精子の数、運動率、形態など)
6.排卵日頃の早朝に性交し、頚管粘液中の精子数を調べる性交後検査(フーナーテスト)
7.受精障害の原因のひとつである抗精子抗体
血中ホルモン検査の中でもFSH、LH、PRL(プロラクチン)は卵巣の機能を推測するための大切な 検査です。しかし、これは絶対的なものではなく、漢方治療で改善できる可能性は十分にあります。
2.不妊症の検査で、比較的必要な検査
8.細いファイバースコープを子宮内に挿入し、子宮内腔を調べる子宮鏡
9.高温期に子宮内膜を採取し着床に適した内膜かどうかを調べる子宮内膜日付診
10.子宮ガン検診
11.左右の卵管を別個に造影する選択的卵管造影
12.排卵障害や一般的なホルモン検査で異常を認めた方に行う特殊なホルモン検査
13.排卵日頃に行い、排卵日の推定や精子の頚管の通過性の目安になる頚管粘液検査
14.排卵の障害になる甲状腺機能異常を調べる甲状腺機能検査
15.不妊女性の合併症でもっとも多い子宮内膜症や子宮筋腫の検査
16.卵管性不妊症の原因となる性行為感染症であるクラミジアの抗原・抗体検査
17.子宮や卵管の結核(性器結核)の検査である月経血結核菌培養
3.不妊症の個別的な特殊検査
18.腹腔内を直接観察し、不妊症の原因を調べたり癒着剥離などを行う腹腔鏡検査(手術)
19.免疫の異常や習慣流産の原因を調べる自己免疫疾患の検査
20.習慣流産や高度男性不妊の場合に夫婦ともに調べる染色体検査
21.高度の肥満や糖尿病の素因があるときに調べる糖尿病検査
4.卵巣予備能とAMH値
女性の卵巣の中には生まれつきたくさんの原始卵胞があります。原始卵胞は月経が始まる時期になって活性化し、一次卵胞→二次卵胞→前胞状卵胞→初期胞状卵胞→中期胞状卵胞→胞状卵胞→胞状卵胞→成熟卵胞と成熟し、約190日かかって排卵を迎えます。
原始卵胞の一部が活性化し始め、一次卵胞→二次卵胞→前胞状卵胞に発育すると抗ミュラー管ホルモン(AMH)を分泌するといわれており、その値は発育過程の卵胞の数に比例すると考えられています。一般にAMHは卵巣内の原子卵胞の減少と卵巣機能が低下すると減少します。
成人女性の血清AMH値は年齢上昇とともに減少し、AMHの主たる産生源である前胞状卵胞の減少を反映しています。
AMH低濃度では、採卵数・受精卵数が有意に低下することで、妊娠率も低下することから、このAMHの測定は不妊女性の卵巣予備能を知る良い指標になると考えられています。
年齢による平均的なAMH値
年齢 | AMH(PM) | AMH(ng/mL) |
25~30歳 | 50 | 7.0 |
30~35歳 | 40 | 5.6 |
35~40歳 | 20 | 2.8 |
40~45歳 | 10 | 1.4 |
45~50歳 | 5 | 0.7 |
例えば32歳でAMH値が0.7と結果が出ると、「あなたの卵巣は更年期の女性に近いですよ」とドクターから告げられるケースがあります。しかし、けっしてそうではありません。AMHは今の卵巣での卵胞の発育具合の目安であって変化しないものではありません。漢方治療やカフマン療法などで改善できる人は多くあります。決して悲観しないようにしてください。
5.排卵障害の検査
LH-RHテスト(GnRH負荷試験によるLHおよびFSHの反応パターン)
LH-RH負荷試験とは、脳下垂体から分泌されるゴナドトロピン(LH:黄体化ホルモン、FSH:卵胞刺激ホルモン)の数値とバランスを調べ、脳下垂体の機能と間脳や卵巣の働きをみて排卵障害の原因を調べます。
LH-RH(黄体化ホルモン放出ホルモン)というホルモンを注射して、15分後と30分後、あるいは30分と60分の間隔で採血してゴナドトロピンの反応値を調べます。
視床下部は間脳の基底部に存在し、交感神経・副交感神経機能及び内分泌機能を全体として制御する重要な中枢である。また、摂食行動・飲水行動・性行動・睡眠などの本能行動、及び怒りや不安などの情動行動の中枢でもあります。
脳下垂体は、視床下部の真下にある血管が非常に発達した1cmほどの器官であり、数多くのホルモンを分泌する重要な臓器です。分泌されたホルモンが効率よく血流に乗って全身に運ばれるようになっています。
前方を占める前葉と、後ろにある後葉とに分けられます。前葉からは卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、成長ホルモン(GH)、乳汁産生ホルモン(PRL)などが分泌され、後葉からは抗利尿ホルモン(ADH)やオキシトシンなどが分泌されます。
LH-RH反応パターン
◇LH-RH負荷試験で、LHとFSHがともに異常低値をしめす場合は中枢性の排卵障害が疑われます。「低ゴナドトロピン性卵巣機能低下症」と呼ばれ、視床下部や下垂体に何かしらの原因があると考えます。
◇LH-RH負荷試験で、LHとFSHがともに異常高値を示す場合は、卵巣性の排卵障害が疑われます。「高ゴナドトロピン性卵巣機能低下症」と呼ばれ、卵巣性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンの分泌に原因があると考えます。
◇FSHは正常範囲内なのに対してLHがいくらか高値を示すことがあります。このような場合では「PCOS」が疑われ、超音波診断では卵巣内に多数の中小の卵胞が見られることがあります。
上記の定型的反応パターンのほか、中間タイプなど様々なケースが存在します。適切な判断が必要です 。
6.基礎体温について
基礎体温とは、眠っていて心もからだも安静にしているときの体温のこと。つまり、正確にいうと、「生命を維持するためだけにエネルギーを使っている状態の体温」を指す言葉です。
でも、睡眠中の体温を自分で測ることはできないので、朝、目が覚めたらすぐに測って、これを基礎体温としています。からだを動かしたり、飲食をしたりすると、体温が上がってしまうので、目覚めたら床の中ですぐに測ることが必要です。
女性の基礎体温は、からだのリズムにしたがって微妙に変化します。これは、2つの女性ホルモン「卵胞ホルモン(エストロゲン)」と「黄体ホルモン(プロゲステロン)」の影響によるものです。
そのため、基礎体温を測ることによって、女性ホルモンの分泌状態を知ることができます。つまり、基礎体温は排卵や月経、妊娠などに関する大切な情報源だということです。
◇排卵の目安
体温の低い時期(低温相)と体温の高い時期(高温相)の温度差が0.3度以下であったり高低がはっきりしない場合、排卵していない可能性があります。
生理初日から11日以内の排卵(早発排卵)は卵巣に妊娠可能な優良原始卵胞が少なくなっている状況が考えられます。
◇体調の変化
月経後の卵胞期(基礎体温の低温相)は1ヶ月のうちで最も体調が良く なる時期。気分が明るく、考え方が前向きになり、肌の調子も良くなります。一方、月経前の黄体期(基礎体温の高温相)は肌荒れ、むくみなどが起こりやすくなり、イライラするなど、心の状態も不安定になりがちな時期といわれています。
◇黄体機能の目安
体温の高い時期(高温相)9日以内の場合は、卵巣の働きがやや低下していることも。プロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌異常がある「黄体機能不全」の疑いが考えられます。
◇妊娠の可能性
高温相が16日以上続くときは妊娠している可能性があります。
7.基礎体温のパターン
正常パターンの基本は、低温期(卵胞発育期)が12~18日の持続、高温期(黄体期)が10日以上の持続、低温期と高温期の温度差が0.3度以上が望ましい。
卵胞や子宮内膜との関連などは、この下の生理と妊娠に関する基礎知識の「1.女性の生理的変化と月経サイクル」をご覧下さい。
基礎体温表のさまざまな型
8.漢方医学では経血色も弁証論治(診断)に大切な情報です。
月経血の色には淡紅・鮮紅・紫紅・深紅・紫黒・淡紫などがあり、気虚・熱・血お・気滞・痰阻・寒などを論治(診断)する大切な情報です。
他に、月経血の量(多い・普通・少ない)、月経血の質(粘稠・稀薄・お塊)、なども弁証論治(診断)に大切な情報です。
6、生理と妊娠に関する基礎知識です。 |
1.女性の生理的変化と月経サイクル
妊娠に好ましい条件
*授精に好ましい発育卵胞の直径は20mm(平均は15~30mm)
*卵胞発育に必要な日数は12~18日間
*着床に好ましい子宮内膜の厚さは8mm以上
*高温期の持続時間は10日間以上が好ましい
*低温期と高温期の温度差は0.3度以上が好ましい
男性の自然妊娠に必要な最低条件と日本人の標準値
*精子濃度 2000万/ml 6000万~2億
*運動率 50%以上 70~90%
*奇形率 50%未満 20%以下
*精液量 2.0ml以上 2.5~4.5ml
精液所見は検査のたびにかなり変動します。
2.妊娠はどのように成立するのでしょうか?
卵胞の発育
まず、生理になった頃から、卵巣の中の5mmほどの卵胞は、間脳などの指示のもと下垂体から分泌されるホルモン(卵胞刺激ホルモンFSH)の刺激で徐々に発育が始まり、8mmほどになる頃から自身で分泌する卵胞ホルモン(エストロゲン)を増し、15mmになるとさらにその分泌は亢進します。このエストロゲンは子宮内膜を増殖させたり、頸管粘液を増量させます。
排卵
月経から2週間目頃には卵胞の成熟はピークに達し、多量に分泌されたエストロゲンが脳下垂体から黄体化ホルモン(LH)の放出を促し、これが卵胞破裂、すなわち排卵を起こします。また、子宮内膜はかなり厚くなり(約10mm)ベッドの土台ができあがります。頸管粘液も最高量になり、精子の受け入れ準備OKとなります。
受精
夫婦生活によって膣内に放出された精子は、頸管粘液中に侵入し子宮→卵管を毎分2~3mmの速度で通って、数時間から数十時間で卵子に会えるはずの卵管の先の卵管膨大部に到着します。卵巣から排卵された卵子も、卵管采にキャッチされ、ここにたどり着いた精子と出会いドッキング(受精)します。
受精卵の成長
その結果できた受精卵は、受精直後から分裂を繰り返し成長しながら、卵管粘膜の繊毛運動と卵管壁の蠕動運動によって卵管内に運ばれ、3~4日かかって子宮内に到着します。その間、排卵した卵巣内には黄体ができ、そこから分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)によって子宮内膜のベッドメイキングが行われます。
着床
そして、子宮内に到着した受精卵がそのベッドにもぐりこんで妊娠が成立(着床)します。受精から着床までには6日間ほどかかります。
3.どうして妊娠しないのでしょうか?
不妊症は、上記の妊娠成立過程のどこかに障害があるわけです。
(1)卵巣因子
一般排卵障害・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)・高プロラクチン血症・黄体機能不全・心因性など。
(2)卵管因子
女性側の不妊因子の30%ほどを占める。
その主たる原因は、細菌感染や子宮内膜症による炎症の発生によって、卵管周囲癒着や卵管采癒着による卵管運動性障害と卵管通過障害です。
治療は通水療法、通水療法で不十分の場合は体外受精・胚移植が適応です。
(3)子宮内膜症
子宮内膜症による不妊の原因は骨盤内癒着、卵管癒着による卵管機能障害、チョコレート嚢胞などによる卵巣機能障害、腹腔内免疫学的環境による受精障害・胚発育障害・精子貪食・着床障害などさまざまな要因があります。原因不明とされている不妊の半数は子宮内膜症不妊の可能性があるといわれています。
(4)頸管粘液因子
排卵日が近づくと精子を迎え入れるために増える頸管粘液の性状の低下や、抗精子抗体が存在する場合。
(5)器質的子宮因子
子宮筋腫や子宮奇形。
(6)免疫学的因子
フーナーテスト不良(抗精子抗体)
不育症の原因としては、抗核抗体陽性・抗リン脂質抗体陽性・膠原病感受性HLA抗原保有・同種免疫異常・NK細胞機能亢進などがあります。
(7)受精障害
受精障害の原因は卵子や精子の質の異常が考えられます。
(8)着床障害
自然な妊娠は勿論、人工授精や体外受精-胚移植により受精卵が着床して妊娠が成立するのはあなたの自然の力です。女性の妊娠の仕組みの中で、この着床に関するメカニズムは未だ解明できずに神秘のベールに包まれています。考えられる原因は黄体機能不全・粘膜下筋腫・子宮内膜症・内膜ポリープ・子宮腺筋症・免疫異常などです。
ここからは、専門的な内容になりますが、
「不妊症の漢方療法」と「不妊症の周期療法」について解説します。
7、かわいい赤ちゃんに 恵まれるための 不妊症の漢方療法(子宝漢方) |
基本
弁証分型と治法
不妊治療に使用される漢方生薬
エキス剤による簡便法の基本パターン
鹿茸大補湯のない場合は参茸補血丸や双料参茸丸でも可。
血虚がある場合は婦宝当帰膠も可。
一番多いは1,腎陽虚と2,血虚と3,肝欝気滞を併発しているパターンです。
上記の内容は専門すぎて難しいと思います。
ぜひ理解していただきたいことは、女性の卵巣や子宮の機能をコントロールしているのは脳(視床下部と脳下垂体)であり、今ひとつは全身の影響も受けているということです。
不妊の漢方療法は、それらも考慮して、心とからだの両面に働きかけ、妊娠できる体づくりのための治療法が確立されているということです。
そのため、婦人科的な要因と全身的な心身の状態により、漢方処方が決定されるのです。
次は、女性の月経周期の生理的な特徴を基本に東洋医学理論と西洋医学理論を結合して考案された新しい漢方の治療法である「不妊症周期療法」について解説します。また、「男性不妊」と「よく受ける質問」につても解説します。
8、 不妊症の漢方周期療法 |
不妊症の漢方周期療法について説明します。
女性の生理周期は、妊娠を準備する基礎的なプロセスのために、月経期・卵胞期・排卵期・黄体期という異なる役割をもつ4期が毎月繰り返されています。
妊娠の条件を整えるために、各期の役割を十分に果たす助けになるように、それぞれの期間ごとに必要な薬を変え、からだを妊娠しやすい状態にさせることが必要です。この考え方に基づいて開発されたのが、不妊症周期療法です。
それぞれの期間ごとの生理的な特質と用いる漢方薬など、近年さらに学問的な議論と臨床上の研究が深められ、高い効果が期待できる療法として確立されています。
月経期 | 卵胞発育期 (低温期) |
排卵期 | 黄体期 (高温期) |
|
治法 | 活血理気薬 | 滋陰養血薬 | 温陽活血薬 | 温陽養陰薬 |
解説 | 不要になった子宮内膜や月経血をスムーズに排出する | 卵胞・卵子の成熟をうながして 健康な子宮内膜を育てる |
排卵を促し卵胞をスムーズに黄体化させる | 黄体機能を促進して胚が着床しやすくしさらに着床した胚に十分な栄養を送り込む |
不妊症周期療法の解説
◆月経期
月経の役割は子宮内膜を再生する前段階として、不必要になった子宮内膜をはがし、溶かして月経血として体外に排出することです。
このように短期間で組織を定期的に全部作り直す仕組みを持つ臓器は他にはありません。卵巣から毎月1個ずつ出される新しい卵子を、いつも新しい清浄な着床環境に迎えられるように、子宮内膜を作り直しを繰り返しています。この時期には血行を促進する生薬の丹参、川きゅう、紅花等を含んだ処方の活血薬を用います。
これには、前の周期で役目を終えた子宮内膜などの残留による無用な増殖を防ぎ、子宮内膜症・子宮筋腫・卵巣嚢腫・卵管周囲癒着などの器質的な障害を予防および治療する意味もあります。
◆卵胞発育期
卵胞期の役割は卵巣内で卵胞を成熟させることと、子宮内膜の新しい粘膜層を再生・増殖させることです。
月経期に止められていた粘膜層への血液の供給を再開し、発育中の卵胞から分泌される卵胞ホルモンの作用により、栄養素を細胞・組織の構成の材料として組み込んでいく働きを進めています。
この時期は当帰、芍薬などを含んだ補血薬と山薬、熟地黄、などの陰を補う滋陰薬を用いることによって月経期で失われた血液の回復を促進し、末梢の血流量を増やして、子宮と卵巣への栄養素やホルモンを供給します。また無用な子宮の収縮や出血が起こらぬように安定させる働きもあるので、補血薬と滋陰薬の組み合わせは子宮内膜の回復と卵胞の成熟を助けるために役立ちます。
◆排卵期
排卵期の役割は卵巣内の成熟卵胞から卵子を排卵し、黄体を作り、低温期(卵胞期)から高温期(黄体期)へ移行させることです。血中の卵胞ホルモン濃度の増加から、卵胞の成熟を知った脳はホルモンにより血液を通じて卵巣に命令を伝え、排卵をうながして成熟卵胞を黄体に変えます。その黄体からホルモンが分泌されて血流で全身に運ばれ、高温期へと移行します。この排卵期には再び活血薬と理気薬を用いて、ホルモン分泌の連携を良くし、確実に、かつ速やかに排卵、黄体化へとつなげます。
◆黄体期
高温期(周期後半の約2週間)の役割は子宮内膜に再生された分泌腺の働きにより、栄養素に富んだ分泌液を蓄え、受精卵を着床・養育できる態勢を整えることです。
黄体ホルモンの作用により、子宮内膜への血液の供給を加速し、体内に蓄えられていた栄養素を分解し、エネルギー代謝を高め、基礎体温を月経期・卵胞期より0.3~0.5度高く維持します。
妊娠したら始めましょう!保胎・養胎を
保胎とは、妊婦が平素より虚弱であったり、過去に2回以上流産を繰り返した場合、または不妊歴が2年以上の場合に流産を予防する方法です。
養胎とは、妊娠後胎児の発育が緩慢な場合、胎児の成長発育を促し流産を予防する方法です。
受精→受精卵の成長→着床が妊娠の成立ですが、これはスタートラインに立ったところです。目指すゴールは出産です。
不妊治療でめでたく妊娠したら、妊娠中期の5ヶ月~6ヶ月ころの安定期にまでは保胎療法を続けられることをお勧めします。
1.保胎
保胎飲:人参・白朮・茯苓・当帰・白芍・阿膠・菟絲子・桑寄生・続断・杜仲
甘草・縮砂・香附子
寿胎飲:菟絲子・桑寄生・続断・阿膠
2.養胎
四君子湯合千金保孕丸
:人参・白朮・茯苓・杜仲・山薬・続断・桑寄生・熟地黄・陳皮・甘草・縮砂
3.最も簡単な方法は、当帰芍薬散と鹿茸大補湯の服用です。保胎にも養胎にも効果があります。鹿茸大補湯は基準量の半量で十分です。
9、男性不妊の検査と漢方療法 |
受精のために精液所見
1、精液量
液体である精液には必ずある程度の「漏出によるロス」が生じます。また内壁にある細かいヒダ構造により膣の表面積は大きくなります。射出された精液は子宮口付近に限らず膣内に広がるため、「局在によるロス」が生じます。喩えるなら手に取った乳液を両手に塗り広げてなお手のひらに残った分が有効利用される精液と考えてください。これらのロスを考えると、精子の数や運動率もさることながら、まずは精液量が十分であることが基本となります。
2、精子数
精子は長い道のりを経て数が減少します。市民マラソンのスタート地点は人で溢れていますが、制限時間までにゴールできる選手はほんの一部であることに似ています。
3、運動率・直進運動性
精子には泳ぐための推進力を生み出す鞭毛があります。しかし実際には全ての精子が動いている事はありません。またその動きも直進するものや蛇行するもの、回転するだけで進まないものなど様々です。精子には視覚はなく、子宮や卵管の壁にぶつかりながら進路をとるため、直進することが距離的に最も効率的でロスが少なくなります。また卵子と受精する際にも卵子の透明帯に直進して行かねばなりません。
この他にも精子には受精に際しての「受精能獲得」や「先体反応」などの機能が備わっており、数や運動率だけでは評価仕切れません。
4、検査に影響を与えうる因子
禁欲期間
精子検査に先だっては「2日以上7日以内」の禁欲期間を取ることが理想的です。
この期間が長くなると精子濃度が上昇し、運動率が低下します。
採集後の状態
精子は採取後、時間の経過とともに運動率が低下してゆきます。採取から検査までの時間は2~3時間が目安です。
採集時の体調
精子は精巣にある精母細胞から精子細胞をへて作られますが、この産生は下垂体からのホルモンにより調整されているため、体調やストレスなどにより影響を受ける可能性があります。心配事があると排卵が遅れるのと同様に、精子の産生も低下することがあるのです。しかし排卵はおよそ一ヶ月周期の生理現象であるのに対して精子の産生はおよそ3ヶ月のサイクルであるため、その影響はすぐには現れません。少なくとも検査をする際の体調やアルコールの摂取が検査結果に直接影響を及ぼすことはありません。
精子の所見はどのような人でも変動がありますので、ある程度の期間をおいて検査を繰り返し行う事が必要です。
男性不妊の検査と基準値
検査項目 | 日本人の標準 | 妊娠可能最低条件 | 異常での漢方用語 |
精液量 | 2.5~4.5ml | 2.0ml以上 | 精液減少症 |
精子濃度 | 6000万~2億/ml | 2000万/ml以上 | 乏精子症 |
精子運動率 | 70 ~90 | 前進運動50%以上 | 精子無力症 |
高速運動率 | 25%以上 | ||
正常形態精子 | 80%以上 | 30%以上 | 奇形精子症 |
精子生存率 | 75%以上 | 精子死滅症 | |
白血球数 | 100万/ml未満 | 膿精子症 | |
抗精子抗体 | 凝集精子50%未満 | 免疫学的不妊 |
「有効精子濃度」による精子の状態からの評価
妊娠に携わる精子は「直進性のある運動精子」であることから、運動率および直進性から算出した「有効精子濃度」により精子の状態を評価が大切となります。
有効精子濃度=精子濃度×運動率×直進性
有効精子濃度 治療法の目安
1000万個/ ml以上 自然妊娠可能
500~1000万個/ ml 人工授精が望ましい
100~500万個/ ml 体外受精が望ましい
100万個/ ml以下 顕微授精が望ましい
◇◇◇ 男性不妊のための漢方療法 ◇◇◇
(1).精液減少症
精液量または精子数が不足することによる不妊症。
精液量2ml以下、精子数は500万~2000万/ml。
1.腎気不足、もともとの虚弱体質・慢性病による消耗などにより腎気が消耗したために発症する。
症状:体力の低下、足腰の無力、性欲低下。
治法:平補腎気
方剤:五子衍宗丸加鹿茸・人参・黄耆
2.腎陽不足、命門火衰によって精室の温煦不能となる。
症状:寒がり、四肢の冷え、小便清長、陽萎、早漏、性欲低下。
治法:壮陽補腎、固腎填精
方剤:壮陽補腎は双料参茸丸、金匱腎気丸、
固腎填精は五子衍宗丸、イーパオ(蟻)
生薬:女貞子、旱蓮草、枸杞子、巴戟天、韮菜子、覆盆子、五味子、黄耆、当帰
(2)、精子無力
精子活動力低下、前進運動精子は50%以下、又は高速直進精子25%以下。
中医学では腎陽虚に属し、ストレスや思慮過度、過剰な性交渉、飲酒過度などによって腎陽虚を引き起こす。
症状:寒がり、腰膝酸軟、四肢冷え
治法:温腎壮陽、固腎填精
方剤:壮陽補腎は双料参茸丸、金匱腎気丸、
固腎填精は五子衍宗丸、イーパオ(蟻)
気滞には血府逐お湯
生薬:女貞子、旱蓮草、枸杞子、巴戟天、韮菓子、覆盆子、五味子、黄耆、当帰
精液減少症、精子減少症、精子無力に対して鹿茸大補湯は基本方剤として効果があります。
(3)、奇形精子
形態正常精子は50%以下。
肝腎不足に属し、過剰な性交渉、飲酒過度などによって肝腎陰虚で、腎精を生成不足となり、精子異常を引き起こす。
症状:ほてり、寝汗、腰膝酸軟、めまい、耳鳴り。
治法:滋補肝腎
方剤:肝腎陰虚には杞菊地黄丸、知柏地黄湯
固腎填精には五子衍宗丸、イーパオ(蟻)
生薬:知母、黄柏、何首烏、女貞子、覆盆子、菟絲子、熟地黄
(4)、膿精液(精液感染)
精液の白血球数は100万個/ml以上。
泌尿生殖器炎症疾患や前立腺炎、睾丸炎、副睾丸炎、精嚢炎などと関連性がある。
前立腺液:クラミジア陽性、又はマイコプラスマ陽性、不潔性交渉、或いは飲食不節、過食肥甘厚味、湿熱内盛、流注下焦などによるもの。
症状:陰部墜脹感、排尿痛や排尿不利など。
治法:清熱利湿
方剤:竜胆瀉肝湯、瀉火補腎丸、
生薬:白花蛇舌草、知母、黄柏、丹参、車前子、白茅根、山梔子、甘草梢、蛇床子、紅藤
(5)、抗精子抗体(免疫学的不妊)
精液検査は抗精子抗体陽性
原因不明で、輸精管障害や前立腺炎、睾丸炎、副睾丸炎、精嚢炎などと関係している。
症状:抗精子抗体陽性
治法:清熱利湿、滋陰補腎
方剤:竜胆瀉肝湯、瀉火補腎丸、(衛益顆粒)、
生薬:自花蛇舌草、知母、黄柏、丹参、車前子、白茅根、山梔子
男性不妊には漢方薬以外にビタミンB12、ATP、ビタミンEなども有効です。
10、よく受ける質問について |
Q1-1.血中のプロラクチンがとても高い、といわれました.どういうことでしょうか?
プロラクチンは乳汁分泌ホルモンといって、脳下垂体から分泌され、母乳の分泌と産後の無月経をおこすはたらきがあります.このホルモンは、妊娠中と産後の授乳中に大量に産生されます。ときどき、このホルモンが妊娠中や授乳中以外に大量に分泌されることがあります。これは、不妊症のおおきな原因のひとつとなります。
プロラクチンが過剰に分泌されると、視床下部からのGn-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌が阻害されます。このLH-RHの刺激なしには、脳下垂体からFSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体形成ホルモン)が正常には分泌されません。卵胞は発育せず、エストロゲンも分泌されず、排卵も月経も起こらなくなります。
血中の正常値は、ふつう15ng/ml未満です。
Q1-2.高プロラクチン血症の治療は、どのようにするのですか?
ブロモクリプチン(パーロデル)やテルグリッド(テルロン)という内服薬が使われます。
空腹時に飲むと気分が悪くなることがあるので、食べ物と一緒に飲みます。最初のうちは、起立性低血圧、吐き気、嘔吐などを起こすことがあるので、寝る前に半錠をなにかの食べ物と一緒に飲むようにします。なにも副作用がない場合は、毎晩一錠ずつ飲むようにします。プロラクチンの値が高いときは、さらに朝、晩、一錠ずつ飲み、4ー6週間後に血中プロラクチン値を測定します。高プロラクチン血症のために無排卵なのであれば、約2ヵ月後には排卵が認められるようになります。
Q1-3.高プロラクチン血症の治療に、ブロモクリプチンやテルグリッドはどの程度有効ですか?
たいへん有効です。
飲み始めてから2~3週間で、プロラクチン値が正常になります。プロラクチン産生腫瘍も縮小することが知られています。
Q1-4.ブロモクリプチンやテルグリッドを、妊娠初期にずっと飲んでいてもだいじょうぶなのですか?
妊娠中にブロモクリプチンやテルグリッドを飲んでいた母親から生まれた子供に先天異常が多い、とする報告はありません。しかし、妊娠が確認されたら投与を中止するのが一般的です。
Q2-1.自分で排卵の時期はわかりますか?
いつ頃排卵するかは、超音波で卵胞の大きさをチェックするのがもっとも確実です。
基礎体温は、あとから見ると、このあたりで排卵したかなというのはわかるのですが、排卵の時期の予測は難しいと思います。頚管粘液でも、ある程度はわかりますが不確実です。
客観的にわかるものには、尿中のLH濃度を調べるLHカラー、LHチェックというものがあります。これがプラスになってからおおむね36時間後に排卵します。
Q2-2.セックスの回数を増やせば妊娠しやすくなりますか?
確率でいえばそのとおりです。
精子は卵子よりも女性の体内で生きている期間が長いため、排卵日前から排卵日にかけて一日おきにセックスをすると、つねに精子が卵子を待ち受けている状態になりますので、受精の確率が上がります。
Q2-3.もし排卵日にきちんとセックスすれば、かならず妊娠できるのですか?
いいえ。健康な男女が排卵日頃に(数回)セックスしても、その周期に妊娠する確率は約20%前後です。
Q3-1.受精には1つの精子しか必要ないのに、どうしてそんなに多くの精子が射精されるのですか?
精子が卵子に到達するまでに、ほとんどの精子は死んでしまうからです。
まず、腟内から多くの精子(精液)が自然に流れ出ます。運良く頚管内に残った精子も、頚管粘液中で淘汰され、1/1000の確率で子宮腔に入ります。また、白血球や貪食細胞に処理されるものも相当数あります。最終的に、卵管采の卵子に到達できる精子は2000個以下。そのなかで、1個の精子のみ受精できるわけです。このサバイバルレースを勝ち抜いた精子は、数億のなかから選ばれた、エリート中のエリート、といえるでしょう。
Q3-2.禁欲期間を長くすると、精液所見が良くなるのでしょうか?
いいえ。
精子は射精されないからといって、いつまでも生きているわけではありません。しばらくすると、精子は変成してきます。その結果、精液中に古い精子が増加し、精液の質はかえって悪くなります。ですから、禁欲期間をおいても妊娠しやすくなる、ということはありません。一般には、2日~7日の禁欲期間をとることが理想的といわれています。
Q4-1.多嚢胞性卵巣と多嚢胞性卵巣症候群とはどう違うのですか?
多嚢胞性卵巣の卵巣白膜に肥厚が認められることが特徴で、時に隆起しているものも見られます。卵巣の表面は多くの小さい嚢胞で覆われていて、嚢胞のあいだの組織(間質)は増殖しています。この多嚢胞性卵巣自体はとくに問題はありません。若い女性の20%にみられた、という報告もあるくらいです。しかし、これに排卵障害やテストステロン過剰による症状(にきび、多毛など)、肥満などの症状が出てくると多嚢胞性卵巣症候群といって、治療の対象になります。
Q4-2.なにが原因で多嚢胞性卵巣症候群になるのですか?
多嚢胞性卵巣は通常、家族性にみられるようです。ですから、遺伝的なもののようです。多嚢胞性卵巣からどのようにして多嚢胞性卵巣症候群になっていくのか、詳しいことはあまりよくわかっていません。もっとも重要なのは、体重の増加と関係があるらしい、ということです.多嚢胞性卵巣は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンに感受性が強く、肥満の女性は痩せている女性よりもインスリンの分泌が多いことから、たまたま多嚢胞性卵巣をもって生まれた女性が太ると卵巣にとって悪い方向へむかう、と考えられます。
Q4-3.多嚢胞性卵巣症候群の治療にはどのようなものがありますか?
まず、肥満という症状があれば、体重を減らすことです。体重を減らすだけで妊娠することもあります。
若年の未婚の女性の場合、ホルモン療法で月経のみ来るようにするカウフマン療法をしますが、無排卵の不妊症であれば、積極的に排卵誘発剤を用います。
Q5-1.無排卵症には、どのような治療がおこなわれるのですか?
高プロラクチン血症にはその治療。
痩せすぎによるものは体重を増やすこと、肥満のPCOSなら体重を落とす、などです。
それ以外のほとんどの無排卵症の治療には、まずクロミフェン(クロミッド、フェミロン)を用い、効果ががなければ注射(HMG、フォリスチムなど)による排卵誘発をおこないます。
稀ですが、下垂体性の排卵障害は内服薬はありませんので、最初から注射による治療になります。
Q5-2.クロミフェンとはどのような薬ですか?
クロミフェン(クロミッド、セロフェンなど)は、視床下部にも脳下垂体にも排卵をおこすようにはたらきます。
視床下部のレベルでは、LH-RHのパルス頻度を増加させ、脳下垂体レベルではLH-RHへの感受性を亢進させます。この両方の作用により脳下垂体からのFSHとLHを増やし、それが卵胞発育を刺激するのです。またクロミフェンは卵巣に直接はたらいて、FSHの刺激に対する感受性を上げるという効果もあるようです。
Q5-3.クロミフェンはどのような飲みかたをするのですか?
通常は、月経周期の5日目から1日1錠ずつ5日間飲む、という方法から始めます。1錠でうまく排卵しない場合、1日2錠ずつ5日間へと増量します。これで排卵するならその後の周期にもおなじ量のクロミフェンを投与します。排卵しない場合も、もう2~3周期同じ量でつづけてみます。排卵した(する)かどうかは、基礎体温と経腟超音波で確認します。
それでも排卵しないようならクロミフェンを増量するのではなく、他の排卵誘発法を考えます。
Q5-4.クロミフェンにはどのような副作用がありますか?
必ず現れるものではありませんが、頚管粘液の量が減ったり粘稠になって精子が頚管を通り抜けにくくなることと、子宮内膜が薄くなる(そのため月経の量が減ることもある)などです。子宮内膜が薄くなるため、受精卵の着床にはマイナスになるかもしれません。このような副作用を抑えるためにも、クロミフェンは排卵をおこす最少量を用います。また、長期の連用を避けます。
Q5-5.クロミフェンを飲むことで、どれくらいの確率で排卵するのですか?
おおむね70ー75%のひとが排卵します。クロミフェンにあまり反応しないのは、エストロゲン不足になっているひとです。
Q5-6.クロミフェンによる排卵率にくらべて妊娠率が低いのは、なぜですか?
不妊の原因は無排卵のみとは限らないので、排卵させてもそれだけでは妊娠しないことは当然多くあります。
Q5-7.クロミフェンとHCGを併用する、という治療法もあるのですか?
クロミフェンで卵胞が発育しても、LHサージが起きないため排卵しないこともあります。そのような場合、HCGの注射をうつことによって排卵を起こすことができます。HCGをうつタイミングは、超音波検査や血中エストラジオール、尿中LHを参考にして決定します。
Q5-8.クロミフェンで排卵が起こらない場合、他にどのような治療法がありますか?
もっとも多く用いられるのがHMG(ヒト閉経ゴナドトロピン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)の注射です。
Q6-1.HMGとは、どのような薬ですか?
HMGとは、ヒト閉経ゴナドトロピンの略です。閉経期の女性の尿から精製したもので、FSHとLHの両方を含みます。最近は、ほぼFSHのみの製剤もあり、使い分けられています。
商品名は、ヒュメゴン、パーゴナル、パーゴグリーン、ゴナドリール、日研HMG、フェルティノーム、などです。
Q6-2.HMGは、どのようにはたらくのですか?
HMGは、卵巣にある卵胞を直接刺激して、発育させます。
HMGの投与中は、超音波による卵胞の観察と、血中エストラジオールの測定でモニターし、卵胞径が18ー20mmあるいは血中エストラジオールが300pg/mlになった時点でHCGを投与して排卵させます。
Q6-3.HMGはどの程度有効なのですか?
患者が低ゴナドトロピン性卵巣機能低下症の場合には、排卵率は90%以上です。
PCOSの場合は、排卵率は70ー75%です。
Q6-4.HMGの副作用にはどのようなものがありますか?
大きな問題がふたつあります。
それは、多胎妊娠と、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)です。
HMGを用いた場合、多胎妊娠率は25%くらい、といわれています。
Q7-1.卵巣過剰刺激症候群(OHSS)とはどのようなものですか?どのような治療を行うのですか?
OHSSとは、卵巣がHMGなどによって過剰に刺激をうけた場合に起こる状態のことで、通常はHCGの注射後に起こります。軽症、中等症、重症、危機的、の四段階があります。
軽症は、卵巣が大きく腫れて、子宮のうしろのダグラスかというところにわずかに腹水がたまる状態です。卵巣が大きくなるにしたがって、重苦しい感じ、下腹部不快感、痛みなどを起こします。
体外受精では大量のHMGを用いますので、ほぼ全例がこの軽症の状態になります。基本的に安静と痛み止めのみで経過をみますが、そう大きな問題とはなりません。
中等症では、さらに卵巣が腫大し、腹水がへその下まで認められるようになります。ただちに入院の必要はありませんが腹部不快感、膨満感はよりひどくなり、体重がふえます。妊娠しなければ一週間以内に軽快します。
腹水がへその上の上腹部に達すると、重症となり入院が必要です。胸水がたまって呼吸障害が出てくると、危機的となり、集中管理が必要になります。身体の全体としては水分過剰ですが、血管内は血液が濃縮するため血栓症を起こしやすくなります。このようになる場合はほとんどが妊娠例であり、人工妊娠中絶が必要になることもあります。
OHSSの治療としてはその重症度に応じて水分制限や、大量のアルブミン(血液中のタンパク)の補給、ドーパミン療法(腎臓の血流量を上げ、尿が出るようにする)、抗凝固療法(血栓の予防)、腹水を抜いて濾過して濃縮し血管内に戻す方法、などがあります。
Q7-2.HMGを使うときに、どうすれば多胎妊娠やOHSSを予防することができますか?
超音波を用いて、卵胞数と卵胞径をきちんとモニターすることです。HMGの量は少なめから開始します。最後に注射するHCGの量も減らし、黄体期補助にHCGを用いないようにします。血中エストラジオールの値も参考になります。直径17mm以上の卵胞が3個以上できているか、エストラジオール値が700pg/ml以上の場合はHCGを注射せず、性交あるいはAIHをキャンセルとします。
体外受精の場合は、おおむね発育卵胞数が20個以上、血中エストラジオール値が3000pg/ml以上のときは採卵はしますが、受精卵を新鮮胚移植せずすべて凍結保存とします(選択的胚凍結保存)。そして、後日自然周期あるいはホルモン補充周期で胚移植を行います。この方法(選択的凍結胚移植)によって、重症以上のOHSSはほとんどなくなります。
Q8-1. IVF-ETとはなんのことですか?
IVFは、In Vitro Fertilization の頭文字をとったもので、日本語では体外受精、と訳します。ETとは Embryo Transfer の略で、日本語では胚(受精卵)移植、と訳します。基本的な原理は、卵巣から1個またはそれ以上の卵子を採ってきて、からだの外で(培養液と培養器が必要です)夫の精子を使って受精させ(体外受精)、受精した1個または数個の受精卵を子宮に戻す方法です。受精卵を子宮に戻す操作を胚移植といいます。
Q9-1.Gn-RHアナログとはどのような薬ですか?
Gn-RH(LH-RH)とは、視床下部から分泌されて、脳下垂体を刺激するホルモンですが、このホルモンの化学構造を変えることにより、もとのGn-RHとおなじ効果と、それに加えて違う効果をもった新しい化合物をつくることができます。それがGn-RHアナログと呼ばれるものです。商品名では鼻から吸入するスプレキュア、ナサニール、注射薬にはリュープリン等があります。
Gn-RHアナログを投与すると、最初に脳下垂体が刺激されますが、何日か続けて使っているうちに今度は脳下垂体が無反応状態となり、天然のGn-RHにも反応しなくなります。その結果、脳下垂体からのFSHやLHの分泌は低下します。LHサージも抑えますので、自然排卵もなくなります。
その結果、HMGやFSHの注射で卵胞発育をコントロールできるようになるので、体外受精のときの卵巣刺激と併用でよく用いられます。
なお、これらのGn-RHアナログは、保険上では子宮内膜症や子宮筋腫に用いられるものです。すなわち、4ヶ月から6ヶ月間月経を止めて、病巣を萎縮させます。スプレキュアは一日3回左右の鼻腔から、ナサニールは一日2回片側の鼻腔から吸入します。リュープリンは皮下注射で、約4週間効果があります。
Q10-1.抗精子抗体と不妊について教えてください?
免疫と抗体について
私たちの体には免疫機能があり、さまざまな抗原(異種のたんぱく質や多糖類・毒素・細菌やウイルスなどの微生物)から体を守っています。
抗原によっては抗体(生体内に抗原が侵入したとき、それに対応して生成され、その抗原に対してのみ反応するたんぱく質。実際に抗体として働くのは免疫グロブリン)もつくります。
抗原が侵入してきたとき、抗体が抗原を攻撃したり、この異物にくっついて白血球などの免疫細胞が攻撃しやすいようにして排除・無毒化し、体を守ります。これを抗原抗体反応といいます。抗原抗体反応のうち、病的な過敏反応をアレルギーといいます。
抗精子抗体について
精子は女性の体にとっては異物です。
したがって、夫婦生活により女性の体内に精子が入ると、それに対する免疫反応として、精子に対する抗体ができることがあります。この精子抗体は、血液中以外に頚管粘液、子宮腔、卵管内、卵胞液内にも出現します。抗体が精子の膜に結合すると、精子に損傷が起き、精子の運動能力が低下しほとんどの精子が卵子にたどり着く前に無力化されてしまいます。
そのため、女性が抗精子抗体を持っている場合には、自然妊娠することは非常に難しくなってきます。ただし、受精卵になってしまえば問題はありません。
抗精子抗体と不妊治療について
抗精子抗体が陽性の場合でも妊娠が不可能というものではありません。
抗体の強さ(抗体価)が高くない時(5%以内)であれば人工授精での妊娠の可能性があります。具体的には精子を洗浄してから子宮に戻す方法になります。
抗体価が20%以上は体外受精や顕微授精になります。
抗精子抗体の抗体価は変動するものですから、一度の検査で失望することでもありません。
Q11-1.妊娠中、特に注意すべき感染症とその危険性について教えてください?
風疹(三日はしか)や水痘(みずぼうそう)に対しての免疫のない人が、妊娠中に風疹や水痘にかかると、流産・早産になることがあります。また、出産されたこどもさんの、目や耳が不自由になったり、精神的発達に遅れが出たりすることもあります。
また、妊娠中に、伝染性紅斑(リンゴ病)にかかった場合には、流産・早産・死産になることがあります。また、妊娠中にサイトメガロウイルス(CMV)に感染すると、誕生後にこどもに学習面での問題が生じることがあります。
妊娠中のおたふくかぜ (ムンプス・流行性耳下腺炎、)の罹患は、先天性奇形と関係ないとされていまが、妊娠初期の場合には、流産の確率が高まります。
Q12.不妊治療にかかる漢方薬の費用を教えてください。
風疹、水痘とおたふくかぜ(ムンプス・流行性耳下腺炎)には予防接種(ワクチン)があります。将来の妊娠を考えている女性は、早めに血液検査(風疹、水痘とムンプスに対する抗体検査)を受けて風疹、水痘とおたふくかぜに対する免疫の有無を確認し、免疫がない場合には、早めに予防接種(ワクチン)を受けましょう。風疹、水痘とムンプスの予防接種(ワクチン)については、妊娠中は接種することができませんし、接種後3ヶ月間は妊娠するのを避ける必要があります。
これらの病気はこどものうちに感染しますが、軽い症状のものが多いです。そして抗体がつくられ、その免疫ができます。しかし妊娠中に感染すると、おなかの中のこどもが悪影響を受ける場合があるのです。
妊娠中には、学校・幼稚園・保育園・小児科医療機関等のようなこどもたちとの接触が多い職場に勤めているような場合、あるいは家族に小さなこどもがいるような場合には、こどもたちからそのような感染症の病原体を受け取って感染してしまうようなことは、避けるように注意する必要があります。
■ お願い
適切な不妊漢方治療のためにはご本人が直接来ていただくことが必須です。
一宮市・稲沢市・江南市・岩倉市・清洲市・北名古屋市・西春日井郡・小牧市などの近郊からは約30分、名古屋市・弥富市・海部郡・あま市・春日井市・岐阜市・各務原市・羽島市・羽島郡などからも30分から1時間以内の距離ですから、初めは必ずご本人が直接お越しください。
基礎体温表やクリニックでの血液検査などの結果も記録がありましたらご持参ください。